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句会

 

 この作品集(写真展)は、そもそもの発端まで遡ると、「寅彦的」というタイトル及びテーマで作ろうと試みていたものでした。

「寅彦」とは、大正時代を中心に活躍した、科学者で随筆家の寺田寅彦(てらだ・とらひこ)のことです。

 読書好きの方はよく御存知と思いますが、寺田寅彦の遺した文章はどれも、科学者らしい硬質な視線と文学の情緒とが溶け合って、極めてデリケートで上質な官能を形作っています。

 そうした世界を写真で再現してみたいと思ったのが最初でしたが、自分がほかの誰かになりきって、その人物の内面世界をシミュレートするなどという離れ技は、容易に成し遂げられるものではありません。また、僕自身、自分の色を抑えているのが段々と我慢しきれなくなったこともあって、次第に「写真を撮る行為を俳句を詠むことに見立てる」作品へと変化して行きました。

 寺田寅彦は、文学の師である夏目漱石の薫陶を受け、句作にも熱心でした。その精神を微かに偲びながら・・・の「句会」です。

 写真はしばしば「俳句に似た」表現だと言われます。

 本当に似ているかどうかはわかりません(一見似通って見える人や物が、実は根っこのところでは全く相容れないほど違っていたというのは、よくある出来事です)。

 それでも、日常の景色の中に一瞬、星が瞬くような非日常を見出すという感覚では、わずかながらも接点がある気がしています。

*「写真を句に見立てる」うえでの、ちょっとした工夫・・・というよりも「お遊び」なのですが、会場で展示したプリントは、一枚一枚の写真の短辺と長辺の比率を「5:7」にトリミングしていました(中には少しだけ「字余り」「字足らず」の写真もあったようです)。

《発表歴》

2017年 写真展「句会」ギャラリーチフリグリ(宮城県仙台市)

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